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「ビブリア古書堂の事件手帖」

作品名ビブリア古書堂の事件手帖
公開年2018
監督三島有紀子
原作三上延
主な出演者黒木華、野村周平、東出昌大、夏帆、成田凌
上演時間120分
評価3.5     
感想 原作はKADOKAWAのライト文芸レーベル「メディアワークス文庫」から2011年に刊行された。同文庫で初のミリオンセラーを記録。2012年の本屋大賞にノミネートされた。

2013年にはフジテレビ系列の月9枠で連続ドラマ化され、剛力彩芽が主人公・栞子を演じた。メガネをかけず、ロングヘアーでもない剛力に対し、原作のイメージと違うと議論を呼んだ作品である。私はこのドラマをリアルタイムで観たが、一番印象に残っているのは栞子の母親役を演じた安田成美だ。当時、休業している期間もあり、テレビ等で観る機会が少なくなっていたので、このドラマに登場した際は、個人的にすごく久々感があった。しかし、「本の為ならなんでもする」という冷酷かつミステリアスな悪女キャラを魅力的に演じ、昔の「風の谷のナウシカ」を歌っていた頃とは異なる良い味を出していた。ドラマは、今回の映画では描かれていない、母親(10年ほど前に栞子を捨て失踪中であった)と娘との確執、そしてある古書を巡る対立が描かれており、二転三転するストーリー展開が面白いので、ぜひ映画と併せて観てほしい。

本作は、50年前と現在を行ったり来たりしながら話が進む。
50年前のパートは叶わぬ恋の物語。昭和を思い出させるノスタルジックな風景がより切なさを誘う。また、太宰治の本の一節が数多く取り上げられていて、言葉の響き・リズムが心地よく場面に馴染んでいる。
現在のパートでは、ビブリア古書堂にある蔵書を狙った事件が起きる。誰が犯人か。事件の真相を探る過程で、意外な人物の関わりが明らかになる。

 

 

ストーリー

篠川栞子(黒木華)はビブリア古書堂の店主である。本が大好きで、天才的な洞察力と知識を持つが、本以外の事になると全くの無頓着。妹の篠川文香(桃果)にも呆れられている。そんな折、五浦大輔(野村周平)が店を訪れる。
最近、大輔の祖母・絹子(渡辺美佐子)が亡くなった。絹子の遺品を整理しているとき、書棚にある夏目漱石全集に目が留まる。「それから」。絹子は大輔にとても優しかったが、大輔が子供の頃、一度だけ、すごく叱られた思い出がある。「それから」を手に取り開こうとしたときだ。絹子に見つかり、叱られ、二度打たれた。大輔はこの出来事がトラウマになり、大人になった今でも小説が読めない。そんな曰く付きの「それから」を書棚から取り出して開いたところ、最後のページに「田中嘉雄様 夏目漱石」と直筆で書かれた文字があった。田中嘉雄って誰?夏目漱石って本物の署名?大輔は興味を持つ。さらに、本の中ほどには、絹子の若い頃の写真と「ビブリア古書堂」と書かれた値札が挟まれていた。
栞子は大輔が持ってきた夏目漱石全集を鑑定し、「田中嘉雄様 夏目漱石」の文字に込められた遠い過去へと思いを巡らせる。そこには、絹子が亡くなるまで、家族にも言えず、秘密にしてきた過去の淡い出来事があった。

頭、ごっつん食堂

50年前、作家志望の田中嘉雄(東出昌大)はふと立ち寄った一杯飯屋「ごうら食堂」で働く絹子(夏帆)に出会う。それ以来、嘉雄は頻繁に食堂に通うようになり、絹子に自分が好きな太宰治の本を貸すようになる。
ある日、いつものように店を訪れ、絹子と二人で太宰の本について語っていた時、「絹子、お前の好きなマドレーヌ買ってきたぞ」と言って一人の男が店に入ってきた。その人物は絹子の夫であった。

絹子に貸した本(発表年)と作中のセリフに使われた一節

 グッド・バイ(1948年)

 人間失格(1948年)

 ヴィヨンの妻(1947年)

 千代女(1941年)

 皮膚と心(1939年)

 桜桃(1948年)

 パンドラの匣(1946年)
僕の周囲は、もう、僕と同じくらいに明るくなっている。全くこれまで、僕たちの現れるところ、つねに、ひとりでに明るく華やかになって行ったじゃないか。あとはもう何も言わず、早くもなく、おそくもなく、極めてあたりまえの歩調でまっすぐに歩いて行こう。この道は、どこへつづいているのか。それは、伸びて行く植物の蔓《つる》に聞いたほうがよい。蔓は答えるだろう

 秋風記(1939年)
ちっとも役に立たないもの。はい。
「片方割れた下駄。」
「歩かない馬。」
「破れた三味線。」
「写らない写真機。」
「つかない電球。」
「飛ばない飛行機。」
「それから、――」
「早く、早く。」
「真実。」
「え?」
「真実。」
「野暮《やぼ》だなあ。じゃあ、忍耐。」
「むずかしいのねえ、私は、苦労。」
「向上心。」
「デカダン。」
「おとといのお天気。」
「私。」Kである。
「僕。」

 冬の花火(1946年)
みんなばかばかしい冬の花火だ

ロケ地山城家(鯨ヶ丘商店街)
所在地〒313-0052
茨城県常陸太田市東二町2240
アクセス常陸太田駅から1,107m

評価額は300万円以上

現在、大輔は、足を怪我して松葉杖をつく栞子を助けるため、ビブリア古書堂を手伝っている。
ビブリア古書堂にある蔵書の中で最も高価な本は太宰治の「晩年」である。太宰治のデビュー作として昭和11年に刊行されたこの初版本はたったの500冊。さらに、袋とじ(アンカット)で、作者の署名があり、帯付きであるのは栞子が保有する一冊しかないかもしれないと言われている。そんな折、長谷の文学館から、太宰治の回顧展をするので、ぜひとも栞子が保有する「晩年」を展示させて欲しいと依頼がくる。依頼に応じて展示したところ、大庭葉蔵を名乗る謎の人物から「晩年」を売ってほしいとメールが届く。栞子は「売るつもりはない」と返信するが、しつこくメールは続き、ついには栞子の身に危険が及ぶ。


ロケ地鎌倉文学館
所在地〒248-0016
神奈川県鎌倉市長谷1-5-3
アクセス江ノ電由比ケ浜駅から徒歩で7分

自信モテ生キヨ

再び過去。嘉雄は自分の作品を完成させるために西伊豆の旅館に籠る。その最中、ある資料を持ってきてほしいと絹子に頼む。絹子は夫に嘘をついて、西伊豆に出かける。ひととき、二人で幸せな時間を過ごした後、嘉雄は椅子に座っている絹子の写真を撮る。そして、部屋から外を見ながら絹子に静かに話しかける。

嘉雄:絹子さん、もしここで、あの海で太宰みたいに一緒に死んでくれと言ったら、絹子さん、どうしますか?

絹子:横っ面叩いて、生きていましょうって言います。だって、どんなに辛くても生きてさえいれば。

嘉雄:自信モテ生キヨ 生キトシ生クルモノ スベテ コレ 罪ノ子ナレバ

ロケ地安田屋旅館
所在地〒410-0223
静岡県沼津市内浦三津19
アクセスJR三島駅から修善寺駅行で伊豆長岡駅下車、三津シーパラダイス行きバス20分終点下車後徒歩1分

おーい、どこへ行く

大輔は書き上げた自分の作品を出版社に送るが、結果は不採用。「貴方の小説に才能を感じられません」との手紙が届く。ショックを受けた大輔は作家になることを諦め、絹子に会いに行く。いつもの待ち合わせ場所「長谷の切通し」で、絹子に「僕と一緒に逃げて下さい」と言い、「僕の気持ちが伝わるはず」と夏目漱石の「それから」を手渡す。そして「来週の日曜の朝7時ここで待ってます」と言って別れる。

ロケ地折戸切通し
所在地〒415-0025
静岡県下田市
アクセス伊豆急下田駅から徒歩で23分

本だけがすべてじゃない

ついに、大庭葉蔵が、栞子から「晩年」を奪うため、ビブリア古書堂に姿を現す。追いつめられる栞子。まさに奪われようとする寸前、妹、そして大輔が助けにくる。一瞬の隙をついて、栞子と大輔は逃げるが、再び、波止場の先で、大庭に追いつめられる。そのとき、栞子は意外な行動に出る。

ロケ地伊豆下田マリンセンター
所在地〒415-0021
静岡県下田市1丁目23-14
アクセス伊豆急下田駅から徒歩約9分