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「悪は存在しない」

作品名悪は存在しない
公開年2024
監督濱口竜介
原作
主な出演者大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁
上演時間106分
評価3.5     
感想 本作は、2023年の第80回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞しました。濱口監督が「ドライブ・マイ・カー」「偶然と想像」に続き描いた“対話と沈黙”の映画で、音楽家・石橋英子とのコラボレーションにより生まれた作品です
 

 
巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)は、自然豊かな高原の町で、慎ましい生活を送っています。 そんな折、コロナ禍の影響で経営難に陥った芸能事務所が、政府からの補助金を得てグランピング場の建設計画を持ち込みます。 この計画は町の水源を汚染する可能性があり、住民たちの間に不安と反対の声が広がります。やがてその影響は、巧たちの穏やかな日常にも影を落とし始めます
 

 
主人公・巧の存在感がリアルであった理由
巧を演じたのは、実はプロの俳優ではありません。もともと制作スタッフだったのですが、濱口監督から「出演することに興味がありますか?」と聞かれ、抜擢されたそうです。そのため、セリフ回しに、いわゆる俳優的な「巧さ」はありません。むしろ、言葉に詰まりそうになるほどの朴訥とした語り口ですが、それが山あいの町で静かに生きる一人の父親としてのリアリティを醸し出しています。この“演技になりすぎない”表現が、映画全体のトーンにぴたりと合っており、観る者の心にじんわりと染みてきます

自然と共にある暮らしの美しさ
巧が薪割りをするシーンや、娘との静かな時間。本作は、地方での生活が丁寧に描かれています。都会ではなかなか感じることのできない“時間の流れ”や“自然のリズム”が映像を通して豊かに伝わってきます
 

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善悪のグラデーションが見える人物描写
この作品が優れているのは、ただ自然を美化するだけでなく、「都市」と「地方」、「企業」と「個人」といった対立構造を一面的に描かないところにあります。たとえば、グランピング場建設の説明会で住民と対立する芸能事務所の男性。最初は明らかに住民の“敵”として描かれますが、物語が進むにつれて、彼自身もこの仕事に葛藤を抱えていることが見えてきます。彼の視線の揺れや、言葉にしきれない迷いは、「正義とは何か?」「本当に悪とは誰か?」という問いを観る者に投げかけ、こうした多面的な人物描写が作品に奥行きを与えています

衝撃のラスト、そして残る余韻
何より忘れられないのが、この映画のラストです。それまでの穏やかな流れが、一気に“ある種の現実”として押し寄せる終盤。観終わったあと、「あれはどういうこと?」と自問自答することになります。この“解釈に正解がない”ラストこそが、本作の真骨頂であり、深い余韻を残します

ロケ地
長野県 富士見町・原村