| 作品名 | ゆきてかへらぬ |
|---|---|
| 公開年 | 2025 |
| 監督 | 根岸吉太郎 |
| 原作 | ― |
| 主な出演者 | 広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、瀧内公美、柄本佑 |
| 上演時間 | 128分 |
| 評価 | 3 |
| 感想 | 本作は、大正から昭和初期という激動の時代を背景に、「才能」と「愛」、そして「戻ることのできない時間」を描いた濃密な人間ドラマです 物語は、大正時代の京都。女優を志す長谷川泰子(広瀬すず)が、若き詩人・中原中也(木戸大聖)と出会うことから始まります まだ未完成でありながら、どこか強烈な輝きを放つ二人は、互いに惹かれ合い、同じ時間を過ごすようになります やがて舞台は東京へ移り、そこに現れるのが文芸評論家・小林秀雄(岡田将生) 中也の才能を認める小林と、その評価を誇りに思う中也。そして、二人の関係の中に入り込む泰子 三人の関係は、友情でも恋愛でも割り切れない奇妙で不安定な均衡の上に成り立っていますが、その均衡はやがて、静かに歪みを帯びていきます 中原中也と小林秀雄という、後に文学史に名を残す存在。その圧倒的な才能に囲まれた中で、泰子が感じる焦燥や孤独は非常に生々しく、単なる三角関係の枠を超えた深みを持っています また、作品全体に漂う「文学的な空気」も印象的です。言葉にしきれない感情や、曖昧な関係性が、会話の間や沈黙によって表現され、観る者に解釈を委ねてきます 広瀬すずはこれまでのイメージを一歩踏み越え、感情の揺らぎを繊細に体現。木戸大聖は中也の危うさと純粋さを併せ持つ存在感を見せ、岡田将生は理性と冷静さを備えた小林像を静かに成立させています 三者三様の演技が交差することで、この物語は単なる恋愛劇ではなく、「人は誰かと完全に分かり合えるのか」という問いを孕んだ作品へと昇華されています そして印象に残るのが、中也の葬儀の場面。最後の対面を終え、言葉を交わすことなくその場を去っていく泰子の姿には、取り戻すことのできない時間と、人生の中で避けることのできない別れの切なさが静かに滲み出ています 本作は、タイトルの「ゆきてかへらぬ」が示す通り、「戻らない時間」とどう向き合うかを描いた物語です。選ばなかった道、言えなかった言葉、失って初めて気づく想い、それらが静かに積み重なり、観終わった後も長く心に残ります。そして、過去を振り返ることしかできない私たちに、「それでも前に進む意味」を静かに問いかけてくる一作です |